古生物・恐竜 妄想雑記

恐竜好きないち素人による妄想語り置き場

中川に流れ着いた者

 4年ぶりの福井観光旅行(もちろん、感染対策は万全にした。おかげさまで夕食は毎日コンビニのパックご飯&カップ麺であった)から帰って来て早々、こんな話が入ってきた。前月末に記載された某メガラプトラとか、FPDMのレポートとか、ネタはいろいろあるのだが、今回はとりあえず新属として記載されたテリジノサウルス類についてグダグダ書き連ねていこう。

 

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 今回記載された化石は、2008年に発見、報告された一連の部分化石である。産出層は蝦夷層群オソウシナイ層下部(カンパニアン期前期。8360万~7785万年前)*1。ただし地層内に保存されていたわけではなく、転石と化したノジュール*2としての産出であった。このため、発見された部位は前肢の末節骨*3に指骨の一部、頚椎の破片が一つと断面化石もいいところ。実際、2008年の報告では、あまりにも断片過ぎたためか、マニラプトル形類としたところで系統解析は終了していた。つまり、属の同定はおろか、科の同定すら困難だったのである。そんなわけで「中川町のマニラプトル形類」は北海道から産出した恐竜化石として名を馳せる……なんてことはなく、むかわ町が降臨してからは、一般知名度はがた落ちになった。

(2022.5.14追記:化石が発見された年は2000年が正解らしい。また、2006年には早稲田大学の研究グループらによって一度テリジノサウルス類と同定されていたようだ。このあたりの研究史については、北海道大学が出したプレスリリースが詳しく書いてくれている。)

 

 それから時は流れて2020年代。系統解析の技術向上により、断片化石でさえも細かい属種の同定ができるようになった(この代表例が、2021年に話題になったウルグベグサウルスである)。北海道大学と岡山理科大、中川町自然史博物館らの研究チームが正体不明のマニラプトル形類の化石を系統解析に放り込んだところ、どうにかこの化石固有の特徴を見出すことができた。

(わかりやすいところでは末節骨の背側根本に割と目立つでっぱりが存在するところか。また、末節骨根本に大きな溝があり、その溝が末節骨を縦断する細長い溝と接続する点も、本種固有の特徴とされている)

 末節骨からはテリジノサウルス類に共通する特徴も見いだされた結果、「中川町のマニラプトル形類」はテリジノサウルス科の新属新種であることが確定。パラリテリジノサウルス・ジャポニクス(Paralitherizinosaurus japonicus)―――海岸のテリジノサウルス・日本産―――と命名された。日本国産恐竜としては記念すべき10種目となったわけである。

(ちなみに「北海道産のテリジノサウルス類」という話の時点で「あれ?最近どっかで聞いたぞ?」となった読者の方もおられるだろう。それもそのはず、4月に放送されたNHKスペシャル『恐竜超世界 in Japan』にて特集されていたのがまさにこの「中川町のマニラプトル形類」、もといパラリテリジノサウルスだったようなのだ。すなわちNHKスペシャルの取材が行われていた時点で、記載・命名に向けた準備はある程度進んでいたとも思われる。あるいは、その時はすでに査読待ちの状態だったかもしれない)

 

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 そんなわけで無事命名までこぎつけたパラリテリジノサウルスだが、部分的な化石に反してその意義は大きい。論文中においても、アジアの海成層から産出した初のテリジノサウルス類と明言されており、テリジノサウルス類がアジア内陸から沿岸部までの広域に生息していたことを示すとされた。また、テリジノサウルス類とされている化石は日本を含めた世界各地で発見されている(日本ではタンバティタニスが産出した篠山層群が、海外ではウルグベグサウルスやティムルレンギアが産出したビセクティ層が該当する)。これらの化石は断片的であるケースがほとんどだが、パラリテリジノサウルス記載時の手法を用いれば、これらのテリジノサウルス類の詳細も明らかにすることができると期待できる。

 

 とはいえやはり、パラリテリジノサウルスの要素はほんの一部分だ。系統解析では派生的テリジノサウルス類の愉快なメンバーたちと派手な多分岐となっており、詳細な分類については産出部位の豊富な追加標本待ちになりそうである(追加標本が出たとしても、それをパラリテリジノサウルスと断定することが困難な気もするが…)。東アジアの沿岸部にいた恐竜たちの研究は、まだまだこれからだ。続報に期待しつつ、今は可能な範囲で白亜紀後期の東アジア沿岸部の環境を想像していきたいものである。

 

参考文献

Mizuki Murakami, Ren Hirayama, Yoshinori Hikida and Hiromichi Hirano, 2008, A theropod dinosaur (Saurischia: Maniraptora) from the Upper Cretaceous Yezo Group of Hokkaido, Northern Japan. Paleontological Research, 12, 421-425.

高橋昭紀、平野弘道、佐藤隆司.2003.北海道天塩中川地域上部白亜系の層序と大型化石群の特性.地質学雑誌.109. 2. 77-95

Yoshitsugu Kobayasi, Ryuji Takasaki, Anthony R. Fiorillo, Tsogtbaatar Chinzorig & Yoshinori Hikida. 2022, New therizinosaurid dinosaur from the marine Osoushinai
Formation (Upper Cretaceous, Japan) provides insight for function and evolution of therizinosaur claws. Scientific Reports. Doi : 10.1038/s41598-022-11063-5

*1:名前の由来は模式地であるオソウシナイ川から。昔からアンモナイトの一大産地として知られていた。

*2:堆積物中に鉱物が充填、析出したもの。団塊、またはコンクリーションとも。詳しくはこちら

*3:指先の骨。後肢の指先の骨も末節骨という