古生物・恐竜 妄想雑記

恐竜好きないち素人による妄想語り置き場

日本産ネームド恐竜まとめ(2022年5月版)

 昭和の香りがまだ残る前期平成紀*1に生まれた方々は、日本の恐竜研究が大きく変わっていく様子をリアルタイムで体感した世代かと思われる。日本で恐竜化石は見つからない、と言われた時代は遠くなったが、やはり日本では海外のような一体分の全身骨格は産出しづらいとされていた時代である。ましてや命名なんて夢のまた夢…、だった。2000年12月にフクイラプトルが記載されるまでは。

 それから4半世紀が経過して、日本の恐竜事情は大きく変化している。岡山理科大北海道大学など、恐竜研究を行う研究室や研究機関は着実に増加している。恐竜産出の報告地域も増えていき、北谷層以外にも注目される産地が目白押しだ。図鑑にフクイラプトルと「フクイリュウ」が登場し、あとはご当地「〇〇リュウ」が日本の恐竜というページで一緒くたに紹介されていただけの時代が懐かしく思えてくる。NHKスペシャルで日本の恐竜が特集された際、「日本の恐竜だけでNスぺ一本作れるようになったのか…」と咽び泣いたのは筆者ひとりではないだろう(と願いたい)。

 そんなわけで今回は、これまで日本で発見された恐竜のうち、記載・命名された恐竜10種*2を簡単に紹介していこうと思う。あくまでも簡単な説明であり、詳細な紹介は今後やっていく予定ではあるが、ひとまずどのような恐竜がどこから産出しているのかの目安となれば幸いである。

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フクイラプトル (Fukuiraptor kitadaniensis

産出層:手取層群北谷層

年代:前期白亜紀 アプチアン(121.4~113.0Ma*3

 2000年に記載されて以降、恐竜王国福井の顔として、そして日本の恐竜代表として図鑑等で知名度を馳せていた恐竜である。発見当初は巨大な末節骨からドロマエオサウルス類として認知され、「キタダニリュウ」という愛称をもらっていた。カルノサウルス類*4と判明してからも分類には難儀したらしく、記載論文ではとりあえずアロサウルス上科*5とされていたようだ。現在では原始的なメガラプトル類のうちの一員として認識されているが、肝心のメガラプトル類の分類は絶賛大混乱中である。メガラプトル類をめぐる混乱収束のためにも、追加標本を期待したい恐竜である。

 ちなみに発見された標本の全長は4.2mだが、これは亜成体のようだ。成体になれば5mにはなったと仮定しても、メガラプトル類としては最小である。メガラプトル類がどこから進化したのであれ、メガラプトル類が中型捕食者として出現したのは間違いなさそうだ。

FPDM所蔵、フクイラプトルの復元骨格。写真は以下筆者撮影

 

フクイサウルスFukuisaurus tetoriensis

産出層:手取層群北谷層

年代:前期白亜紀 アプチアン

 長らく「フクイリュウ」の愛称をもってして、フクイラプトルとコンビで様々な媒体に登場していた恐竜である(筆者が持っている「小学館の図鑑 NEO 恐竜(2002年)」には「まもなく正式な学名も認められるでしょう」と書かれたフクイリュウがいる)。発見された化石は数こそ少ないが各部位まんべんなく産出しており、全長は4.7mと推定されている。2003年に記載・命名された際には、上顎骨の特徴をもとに新属新種と同定したようだ。

 記載当初はイグアノドン科として記載されていたが、2010年代以降にイグアノドン科はその多くが側系統群―――基盤的鳥脚類からハドロサウルス科に至るまでの進化途中の生物―――であることが判明した。例によってフクイサウルスもイグアノドン科から蹴りだされたようだが、系統解析でお目にかかる機会が少ないため、鳥脚類での立ち位置はいまいち不明瞭である。かつてのイグアノドン科がまとめて系統解析にかけられているこちらの論文では、イグアノドンよりも若干古いタイプの恐竜とされているようだ。

フクイサウルス復元骨格。FPDMにて撮影

アルバロフォサウルス(Albalophosaurus yamaguchiorum

産出層:手取層群桑島層

年代:前期白亜紀バランギニアン~オーテリビアン?(139.8~129.4Ma)

 界隈では有名な「桑島化石壁」から産出した化石のうちの一つであり、1998年に頭骨要素のいくつかが確認されている。しばらくの間は「桑島産ヒプシロフォドン類」として紹介されていたのだが、2009年に頭骨に独自の特徴が見られたとして新属新種として命名された。一見日本産に見えない名前は「Alba」が「白」、「lopho」が「峰」、二つ合わせて産出地の「白山」を示している。ついでに「lopho」はアルバロフォサウルスの特徴である歯冠に発達した稜線も示しているという、いかにも日本らしいダブルミーニングな名前なのだ。

 記載時において分類は、角脚類という鳥脚類と周飾頭類(堅頭竜類&角竜類)のグループの基盤的立ち位置に置かれていた。2022年現在では、Wikipediaの該当ページではインロングなどの基盤的角竜科目の一員とされているようだが…。

(なおここで書いた情報は白山市の公式ホームページに詳しく書いてある。詳しくはこちらから

 

フクイティタン(Fukuititan nipponensis

産出層:手取層群北谷層

年代:前期白亜紀 アプチアン

 2007年にFPDMが行った北谷層での第3次発掘調査で発見された恐竜である。発見された層は冗談みたいに硬い岩盤*6&実入りの少ない地層のコンボで手を付けていなかったのだが、これが当たりだった。発見された化石は四肢要素の一部と座骨のみではあるが、一個体分とされた化石には種同定をできるだけの要素が含まれていた。

 2010年に竜脚類としては日本で初めて正式に記載・命名が行われた。ティタノサウルス形類とされているが、詳しい立ち位置は化石が部分的であるため不明瞭だ。2016年にフクイティタンと推測される化石要素も発見されており、追加標本に期待したい恐竜である。なお推定全長は10m程度とされており、20mオーバーがゴロゴロ存在していた竜脚類の中では中型を通り越して小型もいいところである。それでも現在北谷層から産出した生物としてはぶっちきりの最大サイズではあるが。

 

タンバティタニス(Tambatitanis amicitiae

産出層:篠山層群下部層

年代:前期白亜紀 アルビアン(113.0~100.5Ma)

 手取層群4連続(うち3つは福井県)ときて、突然の兵庫県丹波市である。2006年に発見されたのちに2009年まで、丹波市にある「兵庫県人と自然の博物館(通称:ひとはく)」が主導して発掘調査が進められていた。当初全身が出ると予想されていたが、露頭をひっぺ替えして産出したのは関節した尾椎と胴椎要素、肋骨に血道弓と全身の3割ほどだった。ただしその3割の中に脳函と下顎の一部、すなわち頭骨要素―――竜脚類ではほとんど発見されることはない部位―――が含まれていることは特筆するべきであろう。

 それなりの大きさとそれなりの産出量であったためか研究はゆっくりとしたものになったものの、2014年には無事に血道弓や尾椎の特徴を持ってティタノサウルス形類の新属新種として記載命名された。全長は10m程度と、フクイティタンとどっこいかやや大きいぐらいのようである。

 

コシサウルス(Koshisaurus katsuyama

産出層:手取層群北谷層

年代:前期白亜紀 アプチアン

 前述のフクイティタンや後述のフクイヴェナトルを掘り当てた第3次発掘調査には、まだ続きがあった。2007年から始まった北谷層の発掘調査は2010年まで続いたのだが、そのさなかの2008年に鳥脚類の上顎要素が発見された。クリーニングを進める中でフクイサウルスとは別な恐竜であることがはっきりした(が、新属新種と言えるだけの根拠に欠けていた)ため、「フクイサウルスとは別種のイグアノドン類」として2011年に発表された。

 正式に記載・命名されたのは初回発表から4年が経った2015年である。発見された個体は3歳以上の個体(幼体であるのは確定)ではあったが、上顎骨にはしっかりとフクイサウルスとは区別できる特徴があるようだ。丸顔のフクイサウルスとは異なり、コシサウルスは細面であることから、何かしらの食べ分けをしていたこと、そして食べわけができるだけの豊かな環境であったことが推測されている。

コシサウルス産出化石。産出部位はこれですべてである。

フクイヴェナトル(Fukuivenator paradoxus

産出層:手取層群北谷層

年代:前期白亜紀 アプチアン

 詳しい経歴はすでに書き連ねたため多くは書かないが、2008年の発見時にはドロマエオサウルス類とされ、2016年の記載時に系統不明のマニラプトル類へ放り投げられた末に、2022年にテリジノサウルス類の最基盤に引っ越しすることになるという、なかなか忙しい経歴の持ち主だ。

 発見された化石は全長2.5mだが、これはまだ成長途中の亜成体らしい(書いていて思ったのだが、北谷層から産出した恐竜はフクイラプトルやこいつなど、妙に亜成体ばかりの印象だ。生息環境や化石化過程の影響はありそうな気がするが…)。成長すれば3m程度にはなったようだ。また、原記載時において頭骨をCTスキャンにかけることにより、脳の研究が行われていた。結果、三半規管と聴覚をつかさどる領域が発達しており、聴力の良い恐竜であったことが明らかになっている。より派生的かつ大型なテリジノサウルス類も聴覚が発達していたらしく、聴覚の発達はテリジノサウルス類の最基盤から始まっていたようだ。適応の意味について考えると楽しいものがある。

フクイヴェナトル復元骨格。2022年の再記載論文を受けての復元である。

 

カムイサウルス(Kamuysaurus japonicus

産出層:蝦夷層群函淵層

年代:後期白亜紀 マーストリヒチアン後期(69.05~66.0Ma)

 各媒体で宣伝されており、日本語プレスリリースもあり、ついでに記載論文はオープンアクセスである。正直これ以上、当ブログで解説することはないに等しい。記載前後に開催されていた「恐竜博2019」の目玉展示となっていたため、一度は見たというからもおられるのではなかろうか。

 この先復元骨格なり、実物化石なりを見る機会があるかは不明だが、一応カムイサウルスのぱっと見でわかりやすい特徴を上げておこう。まずは胴椎の一部(6~12番目。おおむね肩甲骨付近)に伸びる棘突起が前傾していることが挙げられる。また体格と比べて丸顔(頭骨が前後に短く、上下に高い)かつ小顔であるのも特徴とされている。全体的に細い骨格であることも併せて考えると、エドモントサウルスなどの北米大陸型(正確にはララミディア型)と東アジア型の生息環境や生態の違いが想像できそうな気がしてくる。

カムイサウルス復元骨格。「恐竜博2019」にて筆者撮影。
この時は記載直後であった。上顎骨の吻部と仙椎は未発見であり復元物である点に注意

 

ヤマトサウルス(Yamatosaurus izanagii

産出層:和泉層群北阿万累層

年代:後期白亜紀 マーストリヒチアン前期(71.94~71.69Ma)

 こちらもプレスリリースオープンアクセスで文献が読める恐竜である。化石は2004年に兵庫県在住のアマチュア化石研究家によって、兵庫県淡路島の和泉層群から発見された。海成層から発見された化石は下顎、頚椎がいくつか、尾椎の一部に肩甲骨といった具合だが、保存状態は良好である。発見後にランベオサウルス亜科とみなされ、それからしばらくは「淡路島産のランベオサウルス類」としてそれなりに存在を知られる恐竜となった(筆者も以前買った書籍に掲載されていたのを記憶している)。

 2021年に記載、命名が行われたのだが、当初予想からは大きくそれた結果となった。10mとされた全長が8mまで縮んだのはいいとして、本種はランベオサウルス亜科どころか、ランベオサウルス亜科とサウロロフス亜科が分岐するより前の段階の、基盤的なハドロサウルス類とされたのである。東アジアにはヤマトサウルス以外にもタニウスやプレシオハドロスなどの基盤的なハドロサウルス類が他にも発見されており、東アジアが古いタイプの恐竜たちにとって避難所的な役割を果たしていたことが考えられている。彼らが避難先で繁栄していたのか、それとも派生的なハドロサウルス類に追いに追われて、滅びへと向かっていたのかは、定かではないが。

 

パラリテリジノサウルス(Paralitherizinosaurus japonicus

産出層:蝦夷層群オソウシナイ層

年代:後期白亜紀 カンパニアン前期(83.6~77.85Ma)

 これも本ブログでいろいろ書いたため、正直書くことがない。系統上では(当初筆者が考えていた以上に)テリジノサウルスと近縁であるようだ。中央アジアウズベキスタンに分布するビッセクティ層からもテリジノサウルス類が産出していることも併せて、テリジノサウルス類はユーラシア大陸の内陸から海岸まで幅広い低域・環境に生息していたと考えられている。

 同じ蝦夷層群から産出したカムイサウルスとの関係性が気になるが、残念ながら両者の間には100万年ほどの時間差が存在するため、厳密な意味で両者が共存していた可能性は低いだろう。とはいえ、テリジノサウルス類そのものは白亜紀最末期まで生存していたため、カムイサウルスの背景に何かしらのテリジノサウルス類がいた可能性は高い。あるいはそれは、パラリテリジノサウルスの子孫(か、本人)かもしれない。

記載前にFPDMで撮影したもの。記載後にキャプションがどうなったのかは現状不明

 

日本産恐竜の生息年代一覧。
赤:獣脚類 青:竜脚類 緑:鳥脚類 黄緑:角脚類

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 フクイラプトルの記載から4半世紀と経たないうちに、日本の恐竜相はずいぶんと賑やかになってきた。もちろんこれで打ち止めかと問われれば、そんなことはないと胸を張って言える。昔からの有名どころでは熊本県の御所浦層群や御船層群あたりだろうか。岩手県の久慈層群玉川層からも琥珀と一緒に恐竜の歯が産出している。北谷層での発掘調査は現在も続行中である。あるいは函淵層のような海成層から恐竜化石が産出することもあり得るだろう。そういえば、新しい産地である甑島の続報も気になるところだ。

 それから、博物館で収蔵されている化石も注目していいかもしれない。かつては記載・同定が困難だった化石も、積みあがった化石データから系統解析を行うことが可能になった現在である。ヤマトサウルスやパラリテリジノサウルスのように、収蔵庫で熟睡していた恐竜たちが表舞台に立つことだってありうるのだ。次の4半世紀、日本の恐竜研究がどこまで発展しているか。瞬きすら惜しい程に楽しみだ。

 

(なお個人的に記載が近いと思っているのは、北谷層から産出したオルニトミムス類である。四肢要素の一部と頭骨要素が発見されており、記載には十分なパーツがそろっている気がする。それと恐竜ではないが、和歌山県鳥屋城山層から産出したモササウルス類も、記載の時を首を長くして待っている。)

 

参考文献

Haruo Saegusa & Tadahiro Ikeda, 2014, A new titanosauriform sauropod (Dinosauria: Saurischia) from the Lower Cretaceous of Hyogo, Japan. Zootaxa 3848. (1).

Yoshitsugu Kobayashi, Ryuji Takasaki, Katsuhiro Kubota & Anthony R. Fiorillo, 2021, A new basal hadrosaurid (Dinosauria: Ornithischia) from the latest Cretaceous Kita‑ama Formation in Japan implies the origin of hadrosaurids, Scientific Reports 11. doi: org/10.1038/s41598-021-87719-5

 

東洋一ほか,2020,福井県立恐竜博物館開館20周年記念 福井の恐竜新時代,福井県立恐竜博物館,95p

土屋健,2015,白亜紀の生物 上巻,技術評論社,175p

福井県立恐竜博物館,2018,改訂第7版,福井県立恐竜博物館 展示解説書,218p

真鍋真ほか,2019,恐竜博2019,NHK,183p

*1:西暦1989~2009年まで、平成最初の10年間を指す、筆者の造語。無論だが、対外向けには使用しない方が賢明である

*2:産出地は日本国内産に限定している。よって旧樺太、現サハリンから産出したニッポノサウルスはここに含めない

*3:Maは100万年前を示す地質学用語。100Ma=1億年前

*4:後述のアロサウルス上科&それらと近縁な獣脚類をまとめた分類

*5:メトリアカントサウルス科&アロサウルス科&カルカロドントサウルス科&ネオヴェナトル科の肉食恐竜が所属する分類。大体全員大型肉食恐竜

*6:界隈においては「手取の岩石は硬い」は合言葉と化している。特に砂岩はハンマーで割ろうとすれば火花が飛ぶぐらいには硬い