古生物・恐竜 妄想雑記

恐竜好きないち素人による妄想語り置き場

大型ドロマエオサウルス類の顔ぶれ

 当ブログが始まって約3ヶ月経つが、恐竜に関する記事はいまだに獣脚類しかないのが実情である。これは無論、筆者の趣味嗜好興味関心が獣脚類に偏っているからである(竜脚類や鳥脚類に興味がないわけではないが、両名とも謎の近寄りがたさを感じるのだ)。特にコエルロサウルス類の進化―――すなわち、現生鳥類への進化―――の流れは実に追いかけがいのある分野である。現生鳥類へと近づくにしたがって、樹上生活化、小型化が進んでいくという、コエルロサウルス類の進化の流れが確定している中で、途中には陸生に特化した大型肉食恐竜が出現していることも興味深い。その中でも有名なのはティラノサウルス上科の皆様方*1であろう。それ以外にも、オルニトミモサウルス科のデイノケイルスや、オヴィラプトロサウルス科のギガントラプトルなど、小型種ばかりに見えるコエルロサウルス類にも大型恐竜がしっかりといたのである。

 そんなわけで今回のテーマは、タイトル通り大型ドロマエオサウルス類の紹介である。2022年7月現在、記載報告されている大型ドロマエオサウルス類4属がどのような恐竜であったのか、あくまでも簡単な紹介ではあるが、いざ実際に図鑑や博物館で出会った時の目安となれば幸いである。

(なお今回紹介する4属は単一の系統ではなく、それぞれ独自に大型化を果たした恐竜である。そのため彼らをまとめてひとグループのように紹介することは本来不適切ではあるのだが、当ブログでは説明しやすさと分かりやすさを優先して、これから紹介する4属をまとめて便宜上「大型ドロマエオサウルス類」とさせていただくものとしたい)

 

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ユタラプトル(Utahraptor ostrommaysi

産出地:アメリカ合衆国 ユタ州

産出層:シーダーマウンテン累層 イエローキャット部層

年代:前期白亜紀 バランギニアン?(139.8~132.6Ma)

 大型ドロマエオサウルス類のなかでは一番最初(1993年)に記載されたためか、この4属の中ではもっとも有名な恐竜である。かのBBC版「ウォーキング・ウィズ・ダイナソー~驚異の恐竜王国」の白亜紀前期編に登場していたのも彼である(何ならジュラシック・パークシリーズに登場するヴェロキラプトルも、大きさ的にはユタラプトルに片足突っ込んでいる。生成過程でユタラプトルのDNAがコンタミしたのだろうか)。全長5.5m、体重300㎏はドロマエオサウルス類では文句なしに最大級である。

 その知名度に反して碌な化石は産出していないが、産出した化石からはユタラプトルがかなりごつい体格だったことがうかがえる。全体的に寸詰まりの体型であり、首や後肢は他のドロマエオサウルス類と比較して短く、そして太かった。そのため獲物を長距離にわたって追跡するタイプではなく、短距離から奇襲を仕掛けるタイプだったようだ。(体格については『新・恐竜骨格図集』のp144を一通り眺めた後で4ページ前にいるデイノニクスやサウロルニトレステスと見比べていただきたい。ユタラプトルの異常なまでの頑丈さがわかるはずだ)

 産出したシーダーマウンテン累層の年代については少々議論の続く問題らしく、古い文献ではバレミアン(129.4~121.4Ma)となっていることもある(グレゴリー・ポール著、『恐竜辞典』(原題『The Princeton Field Guide to Dinosaurus 2nd Edition』)など)。それに対して近年の文献や英wiki等ではより時代の古いバランギニアンとなっている。もしこれが事実なら、白亜紀開始から500万年という、ドロマエオサウルス類の進化の早期段階で大型種が登場したことになり、非常に興味深い。同じシーダーマウンテン累層からは推定6頭が折り重なって産出しているそうだが、集団生活の有無については明らかにはなっていないようだ。

 

キロバトルAchillobator giganticus

産出地:モンゴル

産出層:バインシレ層

年代:後期白亜紀 セノマニアン~サントニアン?(100.5~83.6Ma)

 ユタラプトルの6年後に記載された、モンゴル産の大型ドロマエオサウルス類である。産出している部位は上顎骨前方や大腿骨や中足骨などの後肢要素、坐骨と恥骨要素、胴椎、尾椎、肋骨の一部要素と部分的ではあるが、ここから推定された全長は約5mとユタラプトルにも引けを取らない大きさだ。体格的にも後足は太く強靭であり、ユタラプトルのような頑丈な体躯であったことが予想されている。

 残された骨格からヴェロキラプトルやアダサウルスといった、同じくモンゴルから産出する小型ドロマエオサウルス類と共通の特徴を持つことが指摘されている。が、一方でその系統は彼らからは縁遠く、どのような系統解析を行ったにせよ、ユタラプトルやドロマエオサウルス、アトロキラプトルと姉妹群グループを形成するようである。一方で、ヴェロキラプトルとアダサウルスはどの系統解析においても常に姉妹群くらいには近縁な恐竜であることが示されており、モンゴルにおけるドロマエオサウルス類の系統入れ替わりを見せてくれている。

 アキロバトルが産出したバインシレ層についてははっきりとした年代は現在も議論中のようだ*2。2013年に行われた「大恐竜展 ゴビ砂漠の脅威」の公式カタログにはセノマニアン~サントニアンと表記されているが、そうなると年代は100.5~83.6Maと160万年間のどこかというところになるだろう。英語版Wikipediaの該当ページではウラン―鉛年代測定で95.9~89.6Maとされている*3ヴェロキラプトルとアダサウルスの出現はそれより後の時代ではあるが、アキロバトルの系統が後に繋がることはなかったのは、上記の通りである。

 

アウストロラプトル(Austroraptor cabazai

産出地:アルゼンチン

産出層:アレン累層 下部

年代:後期白亜紀 カンパニアン中期(77.9Ma)

 1997年にウネンラギアが記載されてからちょいちょい露出があった「南米ドロマエオサウルス類」―――改め、のちの「ウネンラギア亜科」―――の4属目の恐竜であった*4。2009年に記載された際に報告された化石は7割ぐらいはそろった頭骨、頚椎と胴椎が一部分、割とそろった前後肢と貧弱ではあるが、幸いにして近縁種のブイトレラプトルはほぼ全身が産出していたため、そちらを参考に全長を推定できた。その結果はじき出された数字は、全長6m、体重300kgと、ユタラプトルやアキロバトルをも上回る体躯の持ち主であった。

 とはいえ、アウストロラプトルが前者2名のような強力な捕食者であったのかは少し議論の的となっている。アウストロラプトルの前肢は他のドロマエオサウルス類とは異なり退縮気味であり、細長いあごには鋸歯を持たない円錐形の歯が並んでいる。これらの特徴からアウストロラプトルは魚食性の恐竜だったのではないかとも考えられている。

 ただしこれは頭骨や歯の形態を考慮しての結果であり、やたら細い頭骨や円錐形の歯はウネンラギア亜科に共通の特徴だったりする。またウネンラギア亜科の後肢がドロマエオサウルス類としては極めて長いうえ、第二中足骨が第一、第三中足骨に挟まれ、つぶれかける、いわゆるアークトメタターサルに類似した構造を有しており、極めて高い走行性能を持っていたことがうかがえる。アレン累層からはアウストロラプトルを確実に上回る体格の肉食恐竜は産出しておらず、当時では十分に危険な捕食者だったはずだ。少なくとも竜脚類の幼体をしとめるのであれば、シックルクローがあれば狩りに困ることはなかっただろう。

 なお、アウストロラプトルが産出したアレン累層からはほぼ同格サイズのアベリサウルス科が存在していた*5。走行能力や特徴的な頭骨、シックルクローの存在などから、何かしらの食い分けがあったのは間違いなさそうだ。

(脱線話題だが、アレン累層からは大型ハドロサウルス類や竜脚類に真っ向からケンカを売ることができるような大型肉食恐竜はいまだに発見されていないようだ。時代的にアベリサウルス科の誰かしらか、メガラプトル類なのか、気になるところではある。)

 

ダコタラプトル(Dakotaraptor  steini

産出地:北アメリカ サウスダコタ州

産出層:ヘルクリーク層

年代:後期白亜紀 マーストリヒチアン

 この仲間の中では最も最近(2016年)になって記載された恐竜である。それまでコアなファンのみに広まるうわさ程度にしか知られてこなかった(むろん筆者はそんなうわさは知らなかった)「ヘルクリーク層の大型ドロマエオサウルス類」が遂に記載されたということで、界隈はどったんばったん大騒ぎしていた(らしい)。

 産出層がヘルクリーク層と言うことで勘づいた読者もおられると思うが、ダコタラプトルはあのティラノサウルスと同地域同時代に生息していた恐竜である。従来ヘルクリーク層では全長5m前後の中型肉食恐竜は発見されておらず、アケロラプトルのような小型肉食恐竜とティラノサウルスとの間には派手なニッチのギャップがあったのである。空いている中型肉食恐竜の枠をティラノサウルスの幼体~亜成体が占めていたと考えられていた(何なら現在もなおそう考える研究者もいる)さなかに報告されたダコタラプトルは、衝撃をもってヘルクリーク層の愉快な仲間に加わったというわけだ。

 全長5.5mと見積もらされたダコタラプトルだが、前者3種とはまた異なる趣の恐竜であったようだ。産出要素は割ときれいにそろった前後肢と胴椎の一部ぐらいではあるのだが、産出した後肢はひょろ長く、ユタラプトルのような奇襲型ではなく追跡型の捕食者と考えられている。恐竜界随一の俊足であるオルニトミムス類でさえ攻撃対象としていた可能性もあり、ティラノサウルスの亜成体とは機動性と攻撃方法ですみわけをしていたのかもしれない。

 分類に関してはおおむねドロマエオサウルスなど白亜紀後期に出現した派生的ドロマエオサウルス類に含まれているようだ。ものによってはウネンラギア亜科に含まれたり(走行に特化した細長い脚が疑われたのだろうか?)、アケロラプトルの大型個体とみなされたり(この場合は学名の優先権に伴い、ダコタラプトルはアケロラプトルのジュニアシノニムとなる)しているが、何があろうがヘルクリーク層に全長5m級のドロマエオサウルス類がいたことは確実である。

 

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 現在までに4属が記載された大型ドロマエオサウルス類だが、まさか4属で終わるということはないだろう。現在までに発見されている恐竜は1000種とされているが実際には100万種程度はいたと見積もられている。現在でさえ、中型肉食恐竜が欠落している化石産出層は多く、その中から未知の大型ドロマエオサウルス類がひょっこりと顔(または前後肢)を出す可能性は十分ある。

 大型ドロマエオサウルス類は今のところ、ユタラプトルのようながっしり型と、ダコタラプトルのようなほっそり型の2種類がいたことが明らかになっているが、今後の発見でどちらのタイプが増えるだろうか。環境によりけりとは思うが、ハルシュカラプトルの大型版のような恐竜を想像するのも面白そうだ(とはいえ、白亜紀「中期」で絶滅したスピノサウルス類のニッチを受け継ぐにせよ、かなり無理な気はするが)。大型恐竜ばかりが目立つ恐竜世界だが、その下位にいる中型恐竜も謎だらけである。大型ドロマエオサウルス類がユタラプトルしかいなかった時代がわずか6年で終わったように、彼らのような大型ドロマエオサウルス類、もとい中型獣脚類の生態や系統は、これからも新しい発見一つで変わり続けることだろう。

 

参考文献

Alan H. Turner, et al. 2012, A Review of Doromaeosaurid Systematics and Paravian Phylogeny, Bulletin of The American Museum of Natural History. 371, 206pp

Robert A. Depalma, et al. 2015, The First Giant Raptor (Theropoda: Doromaeosauridae) from the Hell Creek Formation, Paleontological Contributions. 14, 1-16, doi: 10.17161/paleo.1808.18764

 

Gregory S. Paul, 2020,恐竜事典 原著第2版,共立出版,420p

G.Masukawa,2022,新・恐竜骨格図集,イースト・プレス,159p

田中真士,2021,Dino Science 恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語,ソニー・ミュージックソリューションズ,191p

服部創紀,2018,獣脚類~鳥に進化した恐竜たち~,福井県立恐竜博物館,114p

 

*1:ここにメガラプトル類を含めるかは人次第である。なお筆者は何度も言う通り、メガラプトル類はカルカロドントサウルス上科説押しである

*2:そもそもモンゴルの地質事体、その時代を決定することが困難であるという問題がある。モンゴルの地層はことごとくが陸生層であるため、海成層から産出する微化石などを使うことができないためだ。火山岩等も少ないらしく、放射性年代測定も難しそうだ

*3:なお該当ページではセノマニアン~サントニアンと書かれているが、89.6Maは思いっきりコニアシアンである

*4:ラホナヴィスが1998年、ウネンラギア亜科設立のきっかけとなったブイトレラプトルが2005年である

*5:二―ブラ(Niebla antiqua)とクイルメサウルス(Quilmesaurus curriei)の2種。なおどちらも産出化石は悲惨を極めている。クイルメサウルスの記載論文はオープンアクセスだが、スペイン語なので要注意