古生物・恐竜 妄想雑記

恐竜好きないち素人による妄想語り置き場

大型ドロマエオサウルス類、次は何処

 以前にこのような記事を書いたわけだが、あれはあくまで前振りである。投稿からだいぶ間ができてしまったが、続きを書いていこう。

 ユタラプトルの記載から28年が経過したわけで、この期間にユタラプトル級の大型ドロマエオサウルス類が3属追加で記載され、総数4属となったわけだ。とはいえ、相手は常に予想の斜め上を飛んでいく古生物である。まさか大型ドロマエオサウルス類が4属で打ち止めということはたぶんないだろう。すでに知られている産地から、まだ見ぬ大型ドロマエオサウルス類が発見されることもあるだろうし、新しい産地が見つかるともなればなおさらだ。とはいえ、未知の産地については考えることすら困難である。ここはひとつ、既知の産地のうち、どこから大型ドロマエオサウルス類が産出するかを妄想してみよう。なお長くなってしまったので先に結論だけ述べると、

白亜紀前期ヨーロッパ、白亜紀「中期」中央アジアティラノサウルス科とのすみわけ次第(可能性は小さい)

②東アジアは白亜紀前期で可能性大、白亜紀後期はたぶん無理

南米大陸はアベリサウルス科とのすみわけ次第

北米大陸は産出可能性が極めて高い。

の4点である。

(注:何度も言うが、筆者は恐竜が好きなだけの一般人であり、層序の話や生物相の話はさっぱりである。そういうわけで、今回の主要ソース元は英語版Wikipediaの各該当ページとなってしまうが、ご了承いただきたい。)

 

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 さて、大型ドロマエオサウルス類を掘り当てるにはどこを狙うべきだろうか。いくら発掘事業に資金を投入したところで発掘場所が三畳紀の地層であるなら、ドロマエオサウルス類は望めないし、まず恐竜化石にであう確率すら低いだろう。白亜紀の地層で調査を行ったとしても、すでに中型肉食恐竜が産出しているのであれば、やはり望み薄である。では具体的にどこを狙うべきか、筆者が(ぼんやりと)考えるに条件は以下の3点であろうか。

 

①白亜系(白亜紀の地層)であること

ユーラシア大陸(ヨーロッパ&アジア)、南北アメリカ大陸のいずれかであること

③同層内で中型肉食恐竜が産出していないこと

 

 ①はもうそのまんまである。ドロマエオサウルス類の姉妹群とされているトロオドン科と鳥類はそれぞれヘスペロルニトイデス(Hartman 2019)とアーケオプテリクスがジュラ紀後期の地層から産出しており*1、ドロマエオサウルス類自体も、ジュラ紀後期には出現していた可能性が高い。とはいえ、確実な体化石は白亜紀に入ってからだということを考えると、ドロマエオサウルス類が地上に降り立ち*2、陸上生態系の一員となったのは白亜紀からとみていいだろう。

 ②は正直に言って微妙なところである。体化石としてドロマエオサウルス類が産出しているのはかつてのユーラシア大陸、すなわちヨーロッパ、アジア、北アメリカの3箇所と、ウネンラギア亜科が産出する南アメリカ(とマダガスカル)と思っていた。ところが英語版wikipediaを確認すると、アフリカや南極大陸にも生息していたと書かれているのである。南極大陸についてはそれらしき論文(Case 2007)*3が見つかったものの、アフリカ大陸についてはサッパリである。先に少しだけ触れたラボナヴィスがマダガスカルから産出していることを考えると、ウネンラギア亜科の仲間がゴンドワナ大陸の各地に生息していたと考えても突飛ではなさそうだ。

 とはいえである。現状ゴンドワナ大陸におけるドロマエオサウルス類の産出報告はマダガスカル南アメリカ大陸に限られている。ゴンドワナ大陸にドロマエオサウルス類がいた事自体は否定できないが、現状においてアフリカ大陸やオーストラリア・南極大陸に陸上特化のドロマエオサウルス類が生息していたと考えることは困難と言えよう。そういう理由で、今回はアフリカ大陸、オーストラリア・南極大陸の各層は検討対象外とさせていただきたい。

 ③についてはこれと明言された論文は見つけていないが、ダコタラプトルについて言われていることを参考に条件として記述した。ダコタラプトルが産出したヘルクリーク層では小型種のアケロラプトルから大型種のティラノサウルスの間のニッチがこれまでガラ空きとなっていた。その隙間を埋めていたのがダコタラプトルというわけだ。これはつまり、他地域における大型ドロマエオサウルス類の恐竜もまた、中型肉食恐竜としての役割を果たしていたと考えることができる。言ってしまえば、未だに中型肉食恐竜が産出していない地層からは、大型ドロマエオサウルス類が産出する可能性もあるというわけだ。その逆に、すでに中型肉食恐竜が産出している地層からは大型ドロマエオサウルス類は望めないだろう。大型ドロマエオサウルス類の産出の可否は、中型肉食恐竜がどの程度産出しているかに左右されると言っていいだろう。

 

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 では早速、上記条件に基づいて予想していこう。まずはヨーロッパからだ。ヨーロッパで有名な白亜紀の地層といえば、ネオヴェナトルやマンテリサウルスが産出する下部白亜系のウェセックス層であろう。ここからは全長4mの小型肉食恐竜、エオティラヌスが産出している。ネオヴェナトルのホロタイプの全長は約7.5mだが、10mクラスと見られる断片化石も確認されている。中型肉食恐竜のニッチが空白に見えるが、全長4mもあれば、鳥脚類の大型幼体や亜成体などは簡単に捕食できそうだ。ティラノサウルス科の恐竜が白亜紀前期から中型肉食恐竜としてニッチを確立していた可能性もあり、ウェセックス層から大型ドロマエオサウルス類は期待できないかもしれない。とはいえ、ティラノサウルス科とはまた異なる生存戦略をとっているならば、少しぐらい産出する可能性もあるだろう。

 それなりに化石が産出している下部白亜系は何かしら思い浮かぶものがあるが、ヨーロッパの上部白亜系は思い当たるフシがまったく無い(素人ゆえの限界である)。こちらはタラスコサウルスを始めとしたアベリサウルス類がどの程度入り込んでいたのかが影響してくるだろう。もっとも、白亜紀(と言うか中生代)を通じて多島海の環境となっていたヨーロッパである。各島独自の生態系ができていたであろうことは容易に想像がつく。もしかするとその島の一つに、頂点捕食者として大型化したドロマエオサウルス類がいたかもしれない。

 

 アジアはどうだろうか。中央アジアウズベキスタンには今最も注目を集めるビッセクティ層があるわけだが、ここには小型肉食恐竜としてティラノサウルス科のティムルレンギアが、大型肉食恐竜にはウルグベグサウルスがいた。状況は上記のウェセックス層と同じであり、やはり大型ドロマエオサウルス類は難しそうである。

 アキロバトルを輩出したモンゴルはもっと困難であろう。ヴェロキラプトルに代表されるジャドフタ層は乾燥した環境出会ったらしく、それゆえ大型生物は生息できなかったのではないかとも考えられているようだ。よってこの時点で、大量の餌を必要とする中型サイズの恐竜はすべて却下である。ならばタルボサウルスが産出したネメグト層はどうだと持ち出しても、可能性はゼロである。理由は極めて簡単で、「ネメグト層にはアリオラムスがいるから」だ。亜成体の時点で推定全長5mであり、ここから成長したとしてもタルボサウルスのような大型恐竜を専門に襲う捕食者にはなりえないだろう。おそらくはタルボサウルスと各種小型肉食恐竜の間に位置していたであろうアリオラムスの存在を考えるに、ネメグト層から大型ドロマエオサウルス類を探し出すのは不可能に近いだろう。白亜紀後期の東アジアには、同じくアリオラムス族に含まれるキアンゾウサウルスが中国江西省から発見されており、彼らのような細面のやや中型ティラノサウルス科が東アジアの広い範囲に生息していたと考えられる。そうだとするならば、諸城の王氏層群や日本の蝦夷層群、和泉層群なども大型ドロマエオサウルス類の産出は難しそうだ。

 さかのぼって東アジアの白亜紀前期を考えると、羽毛恐竜を多産する遼寧省熱河層群義県層には期待できそうだ。獣脚類から鳥盤類まで小型恐竜ばかりが産出するイメージのある義県層だが、ユウティラヌスやジンゾウサウルスなどの大型恐竜もしっかり発見されている。大型肉食恐竜のユウティラヌス(8m)から小型肉食恐竜のシノカリオプテリクス(2.4m)までは大きなギャップがあり、このあいだを大型ドロマエオサウルス類が埋めていたと考えても問題はなさそうだ。

 こうなると時代も場所も近い日本の各層(手取層群北谷層、篠山層群)も期待を込めたくなるが、少なくとも北谷層は難しいだろう。フクイラプトルの全長は亜成体と考えられるホロタイプ標本で4.2mとされている。ここから成長したとしてもおそらくは中型肉食恐竜のニッチに収まっていた可能性を考えると、北谷層(そしておそらく東アジアの沿岸地域)の中型肉食恐竜のニッチは出現したばかりのメガラプトル類が占めていた可能性がある。そうなれば、大型ドロマエオサウルス類が日本の下部白亜系から産出する可能性は限りなく低いかもしれない。

 

 新大陸、もとい南北アメリカに移ろう。諸般事情に基づき南米大陸からだ。

 アウスロラプトルを輩出した南米大陸には初期から最末期まで、白亜紀全時代を通じてウネンラギア亜科が存在していた。ならば途中途中で大型ドロマエオサウルス類が出現することも期待されるが、ここで問題になるのがアベリサウルス科とメガラプトル類の存在である。カルカロドントサウルス科に蹴散らされるイメージ(偏見ともいう)のあるアベリサウルス科だが、白亜紀前期では大型カルカロドントサウルス科と小型獣脚類(多くの場合ウネンラギア亜科)の中間の地位に位置していたらしい。マプサウルスやメラクセスが産出したフインクル層(Huincul Formation)からは全長7.5mのスコルピオヴェナトルが産出しており、中型肉食恐竜の地位がアベリサウルス類に占領されていた可能性がある。同時期にはアオニラプトルなどのメガラプトル類もアベリサウルス科とほぼ同じような大きさで存在していたことから、ウネンラギア亜科がこれ以上大型化をするのは難しそうだ。

 白亜紀後期における南米大陸の状況について、筆者が把握していることは少ない。とりあえずカルカロドントサウルス科は絶滅し、頂点捕食者の地位にはカルノタウルスなどの派生的アベリサウルス科がついていたようである。これらのアベリサウルス科(おそらくはブラキロストラ*4)からウネンラギア亜科まではまたしても派手にニッチが開いているため、ウネンラギア亜科が大型化して中型肉食恐竜のニッチを埋めていた…と考えても不自然ではないだろう。ただしマイプが産出したChorrillo累層については10m超の大型肉食恐竜であるマイプの下にアベリサウルス科がいたようだ。そのため、Chorrillo累層については大型ドロマエオサウルス類がいた可能性は低いだろう。ただし、アウストロラプトルが産出したアレン累層については、アウストロラプトルとほぼ同サイズのアベリサウルス科がいたことが確定している。アベリサウルス科と何かしらの住み分けをしていたことがうかがえる。もしかすると、白亜紀のすべての時代において、大型ウネンラギア亜科とアベリサウルス科が住み分けをしながら共存していた可能性もあり、そうなれば上記妄想は全てひっくり返るわけだ。

 

 最後は北米大陸*5といってみよう。もったいぶって一番最後に持ってきたのは、北米大陸がもっとも大型ドロマエオサウルス類が産出可能性が(筆者の予想的に)高いからだ。北米大陸の各層はジュデスリバー累層しかり、ダイナソーパーク累層しかり、中型肉食恐竜の枠がごっそり欠けていることが多い(気がする)。それでもゴルゴサウルスとダスプレトサウルスのように同地域同時代にいながら大型肉食恐竜同士ですみわけを行っていたり、大型ティラノサウルス科の幼体~亜成体が中型肉食恐竜のニッチを占領していたりと、厳しい条件はそろっているようにも見える。しかし、ティラノサウルスが頂点に立つヘルクリーク層でダコタラプトルが生きていたのだ。ティラノサウルス科亜成体が相手なら、十分に渡り合った(もしくは共存できた)に違いない。さすがにシーダーマウンテン累層やヘルクリーク層から追加でもう一種追加は望めないし、クローヴァリー層はデイノニクスがいるため、これ以上の発見は望み薄である。とはいえそれを含めて考えても、北米大陸にはこれからも大型ドロマエオサウルス類の産出が期待できるといえそうだ。

 

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 以上、個人的な(ほぼ願望に等しい)妄想をつらつら述べてきた。長々書いてきたが、要するに中型肉食恐竜が現状未発見であるならばどこにでも出現する可能性が高いということだ。世界各地にはこのほかにも恐竜化石が産出する地層はあまたあり、大型ドロマエオサウルス類の新種が発見される可能性は事実上100%といっていいだろう。また、上記検討で考えに上げもしなかったアフリカやオーストラリアから今後確実なドロマエオサウルス類が産出しないという保証はない。いずれ新たな大型ドロマエオサウルス類が報告されたとき、当ブログの妄想が当たるか、外れるか。いずれの将来になろうとも、楽しみなことに変わりはない。

 

参考文献

Judd A. Case, James E. Martin, and Marcelo Reguero, 2007, A dromaeosaur from the Maastrichtian of James Ross Island and the Late Cretaceous Antarctic dinosaur fauna, U.S. Geological Survey and The National Academies. doi:10.3133/of2007-1047.srp083

Scott Hartman, Mickey Mortimer, William R. Wahl, Dean R. Lomax, Jessica Lippincott and David M. Lovelace, 2019, A new paravian dinosaur from the Late Jurassic of North America supports a late acquisition of avian flight, PeerJ, 7:e7247 DOI 10.7717/peerj.7247

Robert A. Depalma, David A. Burnham, Larry D. Martin, Peter L. Larson and Robert T. Bakker, 2015, The First Giant Raptor (Theropoda: Doromaeosauridae) from the Hell Creek Formation, Paleontological Contributions. 14, 1-16, doi: 10.17161/paleo.1808.18764

 

東洋一,2008,恐竜大陸,中日新聞社,142p

Gregory S. Paul, 2020,恐竜事典 原著第2版,共立出版,420p

G.Masukawa,2022,新・恐竜骨格図集,イースト・プレス,159p

田中真士,2021,Dino Science 恐竜科学博 ララミディア大陸の恐竜物語,ソニー・ミュージックソリューションズ,191p

服部創紀,2018,獣脚類~鳥に進化した恐竜たち~,福井県立恐竜博物館,114p

 

*1:ヘスペロルニトイデスがモリソン層、アーケオプテリクスがゾルンホーフェンから産出

*2:ミクロラプトルなどの樹上性ドロマエオサウルス類の存在や、デイノニクス幼体に飛行能力があることなどから、ドロマエオサウルス類は樹上性の恐竜として始まったと考えられている

*3:後に南極産ドロマエオサウルス類はインペロバトルの学名で2019年に記載された(Ely 2019)……のはいいとして、ドロマエオサウルス類にしては妙な恐竜である。記載論文は確保できたため、そのうち紹介したい

*4:カルノタウルスなどの派生的アベリサウルス科獣脚類。そのすべてが南米大陸から産出する

*5:ここで言う北米大陸は、東西に二分された陸地のうち、西側のララミディアのことを指す。東側のアパラチアはそもそも化石記録が少ないため筆者としてはサッパリな場所であるためだ。白亜紀北米大陸地理についてはのちの機会に取り上げようと思う