古生物・恐竜 妄想雑記

恐竜好きないち素人による妄想語り置き場

終焉期の巨人

 そういえば当ブログで一度も竜脚類を書いていなかったことに気が付き、ちまちま当ブログ初となる竜脚類の記事を書いていたわけである。そんなさなかにティタノサウルス科の新属新種が(大変ありがたいことに)オープンアクセスにて報告されたわけだが、これがとんでもない恐竜だったわけである。本来予定していた基盤的竜脚類の記事は将来的に作成するとして、今回はアルゼンチンから産出した新属新種のティタノサウルス類であるティタノマキア・ギメネジ(Titanomachya gimenezi)についてグダグダ語っていこう。前置きが思い浮かばないため、早速本編である。

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 ティタノマキアが産出したのはアルゼンチンのチュブト州北部に分布するラ・コロニア層である。ラ・コロニア層は現時点において後期白亜紀マーストリヒチアンから古第三紀暁新世ダニアンまでの年代とされている(であればK-Pg境界が含まれるはずだが、現時点でイリジウム層の話は聞いていない)。層状泥岩や泥質の細粒砂岩、シルト岩などから河口や干潟、あるいは海岸平野で堆積した地層と考えられている。ティタノマキアが産出した北部セロ・バヨからは鎧竜やアベリサウルス類の一部要素も産出している。場所こそ異なるがラ・コロニア層からはカルノタウルスも産出しており、大型竜脚類と大型獣脚類が闊歩する海岸に近い環境だったといえそうだ。ラ・コロニア層からは以前より竜脚類の要素は産出していたらしいのだが、今回ようやっと記載命名にまで漕ぎつくことができたようだ(裏を返せば、それ以前の竜脚類化石は同定の困難な代物だったことがうかがえる)。

北部セロ・バヨにおけるラ・コロニア層の地質柱状図。Pérez(2024)より引用。



 それでは、ティタノマキアの化石についてみていこう。ティタノマキアのホロタイプ(MPEF Pv 11547。各部位ごとにさらに細かく番号が振られている)は四肢骨(右前肢はごっそり欠損)の他に不完全な肋骨、不完全な後部尾椎、断片的骨盤要素が産出した。このうち固有の特徴は顕著に発達した上腕骨の三角筋付着部や三角筋稜の遠位方向への顕著な拡張などに確認された。また距骨に見られるいくつかの特徴の組み合わせも新属新種としての特徴とされた。

 かろうじて保存されていた尾椎は六角形の断面をしており脊椎中心は高さより幅のある形状である。血道弓は典型的なY字型をしているが、Y字の上部分は全体の25~30%であり、ティタノサウルス類としては珍しい特徴のようである(ティタノサウルス類以外の竜脚類であれば割と普遍的な特徴らしい)。肋骨については発見された部位がそれぞれ3~5番、5~7番、7~8番、9~10番と推定された。形状については同定に関する重要な情報はもたらさないと論文中ではっきりと明言されてしまっているため、当ブログでも省略とさせていただきたい。

 上腕骨はもっとも形状が似ているとされたドレットノータスのように、非常に頑丈にできている。上腕骨の三角筋稜は写真を見ればすぐにわかるレベルで遠位に向かって広がり、後方へ向かって隆起している。

 左腸骨の断片と右恥骨の断片も図示された。どちらの要素にも含気化した形跡は見られず、こちらも頑丈な骨格だったことがうかがえる。

 上腕骨同様、大腿骨も頑丈である。大腿骨の形状は寛骨臼との関節面がそれほど発達していなかったり、腹側の顕著なくびれから徐々に横幅が増加していたりと、上腕骨についてはそっくりだと明言されたドレットノータスとはだいぶ様子が異なっている。頑丈な大腿骨とは打って変わって脛骨はしなやかであり、緩やかにS字を描いている。腓骨もしなやかであり、こちらは直線的な形状となっている。

 順番は前後するが、ここでティタノマキアの全長および体重の話をした方がいいだろう。ティタノマキアのホロタイプ標本は推定全長6m程度、体重は約6~10トンと推定されたのである。竜脚類としては例外的なほど小さく、体重10トン以下のティタノサウルス類として見ても極めてまれな存在であったのである(マギャロサウルスやリライノサウルスなど少なからずいるにはいるが、それでも珍しい)。その一方で推定体重の数値はサルタサウルスやノイケンサウルスなどよりはずっと重く、全長と体重の比率でみればかなり重量級のティタノサウルス類であることが示されたのである。

ティタノマキア骨格図。未発見部位は白抜きで、産出部位は水色で塗られている。Pérez(2024)より引用。

 

 ここまでくれば系統解析の時間である。系統解析の結果、ティタノマキアはエウティタノサウリアの中でサルタサウロイデアにまとめられ、ラペトサウルス、オピストコエリカウディア、サルタサウルスーネウケンサウルス姉妹群とともに多系統を作ることになった。サルタサウロイデアそのものはドレットノータスを最基盤としてマラウイサウルス、タプイアサウルスーアラモサウルス、先述した派生的多系統群としてまとめられることになったのである。この発見によって、北部パタゴニアにおける竜脚類(もといティタノサウルス科)の多様性の一端がまた一つ明らかになった。ただしパタゴニア腹部と中部とで竜脚類相に違いがみられるかについては、今後の研究に託されることとなった。

ティタノサウルス類系統図。Pérez(2024)より引用。

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 以上がティタノマキア記載論文の要約である。ここからはティタノマキアの生存戦略というか、当時のラ・コロニア層におけるティタノマキアの存在について妄想していきたい。

 先述の通り、ティタノマキアは全長6m程度という、竜脚類としては異例なほどの小型恐竜である。大型恐竜がひしめくパタゴニアで、彼らはなぜ小型化の道を選んだのだろうか?

 振り返ると、小型竜脚類(ここではジュラ紀中期以降に出現した10m程度の竜脚類)は地域や時代を問わずに生息していた。同じくサルタサウロイデアに属するサルタサウルスや、ディクラエオサウルス科ではあるがブラキトラケロパンやアマルガサウルス、ヨーロッパのハツェグ島に生息していたマジャーロサウルスなど、小型竜脚類は数こそ少ないながら各所に存在していたのである。ならばこれらの前例から、ティタノマキアという存在について考察ができそうだ。

 まず考えられるのは他植物食恐竜とのすみわけである。例えばブラキトラケロパンはその大きさだけでなく「胴体よりも首の短い竜脚類」として界隈ではメジャーな存在ではあるが、これはブラキトラケロパンの生息地に鳥脚類がいなかったことが理由ではないかとされている。すなわち低層の植物を専門に食べることによって、他の大型竜脚類と住み分けを行っていたのではないか、という話だ。これと同じような話はニジェールサウルスなどでも聞いたことがあり*1、ティタノマキアも(まだ産出こそしていないが)大型竜脚類とのすみわけのために小型したのではないかと考えることも可能である。白亜紀末期と言えば、ララミディアに起源をもつ派生的ハドロサウルス類(エウハドロサウリア)の一部であるアウストロクリトサウリア*2が南下し続け、パタゴニア完全制覇まであと一歩まで迫っていた時代である。ラ・コロニア層からは明確にハドロサウルス類とされた化石はまだ産出していないようだが、もしかするとハドロサウルス類とのすみわけもあったのかもしれない。

 続いての可能性は、ティタノマキアの生息環境において食糧が不足していたというものである。こちらはハツェグ島に生息していたマジャーロサウルスがよい前例であろう。マジャーロサウルスは島という孤立した環境に生息していたがゆえ、島嶼矮化が起きた結果として小型化したのではないかと考えられている。これに倣うとティタノマキアの生息環境も何かしらの要因で他環境から孤立ないしは食糧不足が起きており、これに適応するべく小型化したのではないかと考えることも可能である。こちらの可能性は検討が難しい(上に多分この考えは当てはまりそうもない)気もするが、これらの答えは今後の発見次第だろう。いずれの要因があったにせよ、パタゴニア地域のほぼ全域において、大型竜脚類と小型竜脚類白亜紀末期に至るまで共存していたということは確実だと考えていいだろう。

 

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 以上、ティタノマキアの記載論文紹介と竜脚類の小型化についてあることないことをグダグダ語っていった。書いたことがない竜脚類であるがゆえ正直スルーしようとも考えたのだが、ふたを開けば最上部白亜系から産出した小型竜脚類ということで度肝を抜かされるような存在であった。ティタノマキアは白亜紀後期におけるパタゴニア地域における竜脚類多様性、そして生態系の一端を示す証拠として重要ではあるが、竜脚類恒例として頭骨もなければ脊椎も部分的である(これでも竜脚類の中ではましな産出量だが)。ティタノマキアの詳細については追加標本を待つことになるだろう。頭骨要素が発見されれば、ティタノマキアが小型化した要因がいよいよ見えてくるだろう。今後の研究が楽しみな竜脚類である。

 ラ・コロニア層からはカルノタウルスも産出しているのだが、それ以外の恐竜は同定困難な断片化石ばかりであり、ラ・コロニア層の正確な絵をかくのはまだ困難である。中生代の終焉に立ち会った小さな巨人立ちが生息していた世界は、どのような世界だったのだろうか?南部パタゴニアとともに北部から中部パタゴニアの研究が進めば、白亜紀末期の恐竜多様性が明らかになるに違いない。しばらくパタゴニアの研究からは目が離せないだろう。

 

 以上、そんなわけで当ブログ初となる竜脚類記事でした。はっきり言ってしまうと竜脚類と当ブログの相性は致命的に悪い(大体の場合で産出量がショボいため要約パートで文章量が稼げない&形態がほとんど似たりよったりなので妄想パートでも何も思い浮かばない)と考えていたためかなり意図的に避けていたのですが、今回思い切って勢い任せに書いてみました。いつもより酷い文章になっていると思いますが、ご了承ください。

 そのうちになりますが、本来の竜脚類トップバッターになるはずだった恐竜も変わらず紹介予定です。投稿の暁にはお付き合いのほどよろしくどうぞ。

 

参考文献

Jhonatan Alarcón-Muñoz et al. Relict duck-billed dinosaurs survived into the last age of the dinosaurs in subantarctic Chile.Sci. Adv.9,eadg2456(2023).DOI:10.1126/sciadv.adg2456

rez-Moreno, A., Salgado, L., Carballido, J. L., Otero, A., & Pol, D. (2024). A new titanosaur from the La Colonia Formation (Campanian-Maastrichtian), Chubut Province, Argentina. Historical Biology, 1–20. https://doi.org/10.1080/08912963.2024.2332997

*1:なんなら大型竜脚類同士においても住み分けを行っていたという話は聞いたことがある。例えばモリソン層から産出するディプロドクスとアパトサウルスブロントサウルスの3属は口先の広がり方だったり頚椎の関節具合に差がみられるそうだが、これが餌となる植生の高さの差になっていたのではないかという話がある。ネット上で聞いた話なので信ぴょう性は定かではないが。

*2:白亜紀後期に南米大陸で生息していたセケルノサウルス、ボナパルテサウルス、ケルマプサウラそしてフアラサウルスの4属をまとめた分類群。ゴンコケンの記載論文で初めて提唱された分類群である。