古生物・恐竜 妄想雑記

恐竜好きないち素人による妄想語り置き場

マーストリヒチアンに吹く寒風

 メガラプトル類(メガラプトラ)と言えば、日本産恐竜第一号のフクイラプトル(Fukuiraptor kitadaniensis)や、オーストラリアのアウストラロヴェナトル(Australovenator wintonensis)、模式属のメガラプトル(Megaraptor namunhuaiquii)などが所属する、研究史的には新しいグループである。そんな新しさに反して、何かと系統解析で問題になりがちなグループであるがために、系統解析ではしょっちゅう登場するという、ある意味においてはメジャーな存在になりつつある(一般知名度はそんなに高くなさそうだが…)。

 そんなメガラプトル類に2022年4月に新属新種が追加された。科博チームが発掘調査に参加していたそうで、研究内容をまとめたプレスリリースと思われるなにかも発表されている。日本語資料が豊富なことをいいことに、今回はメガラプトル類の新規メンバーについて、グダグダと書き連ねていきたい。

 

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 今回新しく記載されたのは、マイプ・マクロソラックス(Maip macrothorax)と命名されたメガラプトラの肉食恐竜だ。名前の由来はそれぞれ、属名のマイプが発掘地域の神話に登場する「死の影」(アンデス山脈を徘徊し寒風を吹かせてる死神のような存在らしい)を、種小名はやたらごつく、頑丈な胸部にちなんでいる。

 発見された部位はやはりというか―――ある意味メガラプトラの恒例というべきか―――、部分的である。発見部位の内訳は、部分的な脊椎に、これまた部分的な尾椎、肋骨及び腹肋骨、肩甲骨の断片といったところだ。いつもどおり頭骨は未発見だし、メガラプトラで重要な前後肢も破片要素しか出ていない。素人目には同定すらムリゲー感の漂う状況ではあるが、産出した脊椎や復元された胸部からはしっかりとメガラプトラの特徴(正確にはメガラプトルやムルスラプトル(Murusraptor barrosaensis)との共通点)が残っていたようで、無事にメガラプトラの系統へ所属することになった。

 

 問題なのはそのサイズと時代である。肩甲骨よりはじき出されたその全長は9m。これまでメガラプトラで最大サイズはムスルラプトルの6.4m、あるいはアエロステオン(Aerosteon riocoloradensis)の7mとされていた。そこに9mという全長は、文句なしに最大サイズである。さすがにティラノサウルス(と東アジアの愉快な近縁属)にはかなわないが、その他ほとんどの有名獣脚類と並べても見劣りしない大きさだ。

 そして時代。マイプが産出したChorrillo累層(チョーリロと呼べばいいだろうか?)の年代は7000万年前とされた。白亜紀後期の最末期、マーストリヒチアン前期である。これまでマーストリヒチアン界から産出したメガラプトラは存在せず、カンパニアン中期以降には絶滅していたと考えられていたのである。もしマイプの産出した地層の年代がマーストリヒチアンであれば、メガラプトラは白亜紀最末期まで生き残り、南米大陸においては頂点捕食者の地位についていたという、これまでの定説に修正を迫る存在となりそうなのである。

(なりそう、とあやふやに書いたのは理由がある。メガラプトラの各メンバーの生息年代は、原記載時から古い年代になっていることが多いのだ。原記載でサントニアン(8630万~8360万年前)とされていたアエロステオンは今回コニアシアン(8930万~8630万年前)とされているなど、メガラプトラの年代については一歩下がって冷静に見たほうがいいほど前科持ちである。)

 

 ちなみに(と言うか、こちらの方が本命話題というべきか)、マイプの系統的な立ち位置、そしてメガラプトラの系統についても当論文で議論されている。このうちメガラプトラ内での系統では、アエロステオン、トラタイェニア、オルコラプトルを含んだ上位クレード「Clade "B"」の一員とされた。暫定最後のメガラプトラであるマイプは、やはりもっとも派生的な種類だったようだ。

メガラプトラ系統図。Rolando(2022)より引用。

 

 論争の続くメガラプトラの分類については、マイプに見られた特徴から、ティラノサウルス上科の姉妹群とされた(ティラノサウルス上科には含まれない点には注意)。メガラプトラの分類については、主に以下の3つの説が有力視されている。すなわち、

 

①カルカロドントサウルス上科、ネオヴェナトル科

ティラノサウルス上科

コエルロサウルス類、非ティラノサウルス上科

 

とされていたのだが、マイプの系統解析では②寄りの③といった立ち位置になった。

(ちなみに系統図を眺めて驚いたのは、アオニラプトル(Aoniraptor libertatem)がメガラプトラとして数えられたことである。従来アオニラプトルは、グアリコのシノニム(同じ恐竜)とされており、系統図でお目にかかる機会はほぼなかったのだ。アオニラプトルとグアリコが別種の恐竜だったという2020年の研究や、グアリコがアオニラプトル&ケラトサウルス類のキメラ化石だったという噂もあり、この辺りは正直よくわからない。)

 

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 マイプが産出したChorrillo累層からは小型鳥脚類のイサシクルソルや竜脚類のヌロティタンが産出している。その他にも曲竜類*1、ウネンラギラ亜科*2、ノアサウルス亜科、ハドロサウルス科など未同定の恐竜や、両生類や魚類、ほ乳類なども産出している。これからChorrillo累層の発掘、研究が進めば、白亜紀最末期の南米大陸の生態系がより鮮明に復元できそうだ。メガラプトラとして最大かつ最後の種だったマイプが生きていた世界は、これからどんどんと明らかになるだろう。

 

(蛇足になって申し訳ないが、筆者自身は今回の系統解析には正直懐疑的立場である。メガラプトラの化石はどれも断片的なうえ、マイプはメガラプトラでももっとも派生的な恐竜である。すなわち、マイプに見られるティラノサウルス類に似た特徴は収斂進化の結果ととらえることも可能なのだ。アークトメタターサリア*3の過去も考えると、メガラプトラの立ち位置を定めるためには、メガラプトラの最基盤ともされるプウィアンゴヴェナトルやフクイラプトルの全身がわかる化石が産出することを祈るよりほかになさそうだ。)

 

参考文献

Alexis M. Aranciaga Rolando, Matias J. Motta1, Federico L. Agnolín, Makoto Manabe,
Takanobu Tsuihiji & Fernando E. Novas. 2022. A large Megaraptoridae (Theropoda: Coelurosauria) from Upper Cretaceous (Maastrichtian) of Patagonia, Argentina. Scientific Reports, Doi : 10.1038/s41598-022-09272-z

*1:鎧竜類とも。アンキロサウルスやノドサウルスなどの鎧を持つ恐竜のグループ

*2:ドロマエオサウルス類の1グループ。主に南米大陸に生息していた。

*3:後肢に「アークトメタターサル」と呼ばれる構造を持つ獣脚類の総称。ティラノサウルス科、オルニトミムス科、トロオドン科が所属していたが、後の研究でそれぞれが独自に獲得した形質であることが判明。共通祖先をもたなかった「アークトメタターサリア」は学術用語ではなくなり、現在は使われない分類名となっている。