古生物・恐竜 妄想雑記

恐竜好きないち素人による妄想語り置き場

『恐竜博2023』レポート

 事前予想記事3本、予習記事2本(実質4本)を投稿したにもかかわらず、諸藩事情がもろもろあったおかげで行けなかったわけだが、ようやっとというわけである(単純に繁忙期を見据えて4月に予定をぶち込んでいただけの話だが)。筆者としても4年ぶりの科博にして同じく4年ぶりの関東遠征だったわけだが、意気揚々と乗り込んだ結果として完全に語彙力を失うことになった。そんなわけで今回は『恐竜博2023』のレポートである。すでに開催から半月以上が経過しており需要があるかどうかが不明ではあるが、とりあえず楽しんでいただければ幸いである。

 

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 入場して3秒で視界に入るデカいのはとりあえず置いておくとして、まずは三畳紀の恐竜たちが登場する。特別展常連組のエオドロマエウスはいいとして、シレサウルス科のアシリサウルスとヘテロドントサウルスが並ぶという粋な展示となっている。キャプションにおいて「シレサウルス科が鳥盤目に含まれる」という例の仮説(本ブログで『プリオノドンティア仮説』と言っていたアレ)が紹介されており、これを追いかけていた筆者がマスクの下でニヤリとしたのは言うまでもない。両者の骨盤や頭骨を比較してみるとこの仮説についてちょっと深く楽しめる。

 

 とりあえず保留していた世界最大のげったうぇーとらいく!プエルタサウルスの骨格図。その大きさに圧倒されそうになるが、これでも実物の6割弱の大きさらしい。実物はどれだけ大きいのやら……。

 

 プエルタサウルスの頚椎と胴椎の化石標本(複製)である。隣にいるエオラプトルと比べてみるとその大きさが改めて分かる。エオラプトルの分類に諸説はあるが、エオラプトルから約1億5000万年経ってプエルタサウルスのような超大型竜脚類が登場したことを考えると、竜脚類の進化に恐怖を覚えた。

 

 ここからは主要な装盾類を一挙に紹介するコーナーとなっていた。トップバッターたるスクテロサウルスは装盾類の最基盤として研究者の見解が一致している恐竜だ*1。たいへんかわいらしい見た目だが、体表を覆う鎧や低い姿勢など装盾類の基本形はここで完成していたことがうかがえる。2022年に記載されたジャカピルもおおむねこんな感じだったかもしれない(ジャカピルはもっと寸詰まりのがっしりした体つきだっただろうが)。

 

 スケリドサウルスの復元骨格(早い人はこの辺りで語彙力を失う)に引き続き、ヘスペロサウルス、アニマンタルクス、タラルルスと福井県立恐竜博物館組が続く(ヘスペロサウルスもアニマンタルクスも1年ぶりだった筆者)。ヘスペロサウルスについては常設展示にいた標本と同じ人だろう。であるならば見るべきは……。

 

 FPDMのヘスペロサウルスと言えばここである。配置の都合上、頭の真上にサゴマイザー(尾のスパイク)が見えるのもありがたいポイントの一つとなっている。

 

 先月発表されたピナコサウルスの喉化石(3Dプリンターによる複製)やサイカニアの頭骨化石などをはさみ、いよいよ主役のズール登場である。ズールの頭骨(実物化石)は個別に展示されており、360度の観察が可能となっている。記載論文では見えてこない変形っぷりや、それに伴う損傷もよく見える。とはいえすさまじい保存状態であることには変わらないが、ここはまだジャブ程度である。

 

 次の部屋にはズールの全身骨格が床置きされていた。若干斜めに床置きされており、また一段高くなった通路から見下ろすような形でやはり360度から観察できる。こうしてみると上下方向へかなりの圧縮を受けているように見えるが、やはり保存状態はすさまじい。生前そのままの状態をとどめた鎧の化石が発見された例はスコロサウルスやボレアロペルタなど数えるほどであり、その中でもズールは最良のものと言えるだろう。

 

 で、注目したいのは開催直前になって論文発表された皮骨の損傷である。もちろんキャプションや会場内での動画で説明されており、予習のために論文を読む必要はあまりない(読んだら読んだで楽しいけどそれはそれである)。あとは記載論文で言及されている尾についても、張り付いて観察したい。種小名のクルリヴァスタトルの意味が強く理解できるはずだ。

 

 ズールとゴルゴサウルス(ROM1247)の復元骨格を経て展示されているゴルゴサウルスの頭骨(実物)が登場。思わず息をのむ美しさである。ROM1247は亜成体(もしくは大型幼体)と推定されており、展示されている復元骨格と合わせてティラノサウル科の亜成体の姿(幅の狭く前後に長い頭骨、体格に対して長い後足)を示している。

 

 こういうところは地味に好きな筆者である。

 

 ズールと同じ地層(ジュディス・リバー層)から産出した未命名のケラトプス科である。情報公開されたときに「なんか子供っぽい骨格だなぁ」と思っていたら、やはり幼体だった(近くに展示されている剥片標本の成長線を数えてみよう)。尾椎の椎体と神経弓が全く癒合していないことがわかる。

 

 近々記載されるようなので、全力で写真撮影にいそしもう。特に頭骨はケラトプス科の特徴が最も現れる部位であるため、化石部位一つ一つを写真に収めてもいいかもしれない。全体的にバラバラだが、保存状態は良好である。

 

 復元骨格は復元部位(アーティファクト)が色付けされていないため、実際の化石が見つかった部位との違いはすぐに分かるようになっている。なんとなく顔つきがナーストケラトプスに似ている気がするが、どうもナーストケラトプスやアヴァケラトプスと近縁であるようだ*2

 

 

 振り向けば奴がいるティラノサウルスのタイソンとスコッティである(写真都合によりスコッティしか写っていないが)。タイソンは個人所有標本(プライベートコレクション)だそうで、まったく情報がなかったのはつまりそういうことだったようだ。スコッティはいつも通りのむかわ出身の特別展常連標本である。

 

 ダブルティラノの反対側には先日ホロタイプが来日したスキピオニクスが展示されている。こちらも恐ろしいほどの保存状態であり、展示キャプションと合わせてみれば彼(彼女)が生きた3週間に感動すること間違いなしである。

 

 NHKスペシャルで使用されたCG映像を挟んで、最後は南米大陸の獣脚類のコーナーである。カルノタウルスは茨城県博からやってきた標本であるようだ(初見で勘違いした筆者がFPDM標本だとTwitterでつぶやいてしまったのはここだけの話)。たぶん膝から下はもう少し短くていいだろう。

 

 足元に置いてあるのはカルノタウルス前肢の標本である。恐竜博2023に合わせて再クリーニングを実施したらしい。ティラノサウルスやメガラプトルとはまた違った前肢の形状は見ていて飽きない。今後の研究が楽しみだ。正直使い道はなさそうなのに爪が立派なのは謎でしかない。

 

 FPDMから派遣されたフクイラプトル(写真外)とメガラプトル。フクイラプトルについては常設展示にいた標本だろう。メガラプトルはFPDMが関わる特別展にはよくいたらしいのだが、筆者は初めて見た。フクイラプトルは全体的に旧復元気味*3であるため、とにかく前肢に注目したい。

 

 ティラノサウルスやカルノタウルスの小さい腕ばかり見ていると、メガラプトルの巨大な腕に度肝を抜かれることになる。第1指および第2指の巨大な末節骨に目を奪われそうになるが、実はひじから先(橈骨および尺骨)もとんでもない形をしている。基盤的なメガラプトラのフクイラプトルの前肢と比較すると、メガラプトル(と言うか、派生的なメガラプトラ)が獣脚類としてはどれほど異質かがわかるだろう。

 

 その下にいるのは目玉展示のマイプ(当然ホロタイプ)である。大変に保存はよく、筋肉付着痕までよく見える。巨大な烏口骨や含気化した頚椎は特に注目だ。

 

 隣にあるマイプの第六胴椎と肋骨、副肋骨はとにかくデカい。ティラノサウルスに負けず劣らすの巨大さであり、マイプの種小名であるマクロソラックスの意味が強く意識できる。展示されているメガラプトルの全長が8mだそうで、ケース越しにも圧をかけてくるマイプの肋骨からマイプの全長はある程度想像がつくだろう。なお現場には掘り残しがまだあるらしく、現在追加発掘を実施しているらしい。追加標本がそろった暁にはマイプの復元骨格が作成されるそうで、こちらの記載も楽しみだ。

 

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 以上、恐竜博2023について展示内容を紹介していった。実のところ展示総数は例年の特別展よりも少ないのだが、そろった標本がすべてとんでもないものぞろいのため、物足りなさは全く感じなかった。ゆとりをもって全方位から観察できることも相まって、会場に入ればあっというまに2時間以上は溶けていること間違いなしである。未記載標本が多数登場していることもいつも通りであり、記載論文を前にした予習と称して写真撮影にいそしむのも手のうちの一つであろう。上記にあげた写真や標本はほんの一部であり、このほかにもテスケロサウルスの頭骨や夕張町産ノドサウルス類も展示されている。できれば1回につき2周、可能ならば2度3度と訪れてみたくなる、そんな特別展であった。『恐竜博2023』は国立科学博物館で6月18日までの開催である。興味がある方、もう一度行きたい方はぜひにどうぞ。鈍器サイズの図録の購入もお忘れずに。

 

~おまけ~

 

 事実上昼食を抜いた状態でそのまま地球館と日本館を駆け回った筆者であった。地球館地下2階ではバージェス生物群の紹介コーナーが。こんなコーナー、4年前にあったっけ?隣にはチェンジャン生物群の化石も展示されていた。

 

 よう、4年ぶりだな。

 というわけで、久しぶりの科博を堪能した筆者であった。(次の東京は9月だな……。)

*1:図録によれば他にもラキンタサウラなどの候補もいるらしいが、彼らは研究者によって装盾類から外す意見もあるらしい

*2:というか、この標本はもともとアヴァケラトプスとされていた標本であるようだ。この標本についている「AVA」という愛称はおそらくそこから来ているのだろう。

*3:特に頭骨はシンラプトル風復元そのままである。図録でもしっかりそのあたりについては言及されている。とはいえフクイラプトルの頭骨について正確に復元するすべはほぼないのだが……