古生物・恐竜 妄想雑記

恐竜好きないち素人による妄想語り置き場

「福井県立恐竜博物館」レポート

 そんなわけでこの5月連休のスキに福井県、もとい勝山市にある「福井県立恐竜博物館(FPDM)」に行ってきた(連休中日の平日なら人は少なかろうともくろんだが、そんなことはなかった。どうやら地元小学校の遠足コースになっているようだ)。4年ぶりのFPDMを前にしてテンションが上がり、900枚ぐらい写真を撮ることになった。このまま死蔵するのももったいない気がしたので、当ブログでやりたかった企画のうちの一つである、博物館レポートをやっていこうと思う。

 とはいえ、相手は世界三大恐竜博物館の一角である*1。常設展示を紹介するだけでいっぱいいっぱいになってしまうため、当ブログでは北谷層から産出した恐竜を紹介するコーナーの身に焦点を当ててレポートとしていきたい。常設展示を見たい方はFPDMのオンラインストアから展示解説書を購入いただくか、実際に訪れていただくことをお勧めしたい。なお現在、新型コロナウイルス対策で来館前の予約が必要である点については注意していただきたい(正直な話、割と快適な環境でじっくりと観察できたため、今後とも事前予約制は続けてほしいものである)。

 

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 順路通りに進んでいくと、日本の恐竜研究、国内主要産出地の紹介パネルが存在する。北谷層の化石を見る前にこちらを見ておくことをお勧めしたい。モシリュウ発見以降の日本恐竜研究の流れの中に北谷層があることを実感できるだろう。

 その中に展示されているのがこの恐竜である。ちなみに解説キャプションは「マニラプトル類」「産地:北海道中川町」「地層:上部蝦夷層群オソウシナイ層」である。察した方、たぶん正解であろう。

 

 そして迎えてくれるのは北谷層から産出したネームド恐竜である。全身復元骨格に目を奪われるが、足元にある実物化石たちにも注目していきたい。

 

 フクイサウルスFukuisaurus tetoriensis)の産出部位はまんべんなく(断片的に)出ている。頭骨要素はしがみついて観察したい。鳥盤類コーナーにいるイグアノドン(Iguanodon bernissartensis)と見比べてみると面白そうである。

 

 フクイサウルスの隣にいるのは国産恐竜第一号のフクイラプトル(Fukuiraptor kitadaniensis)だ。こちらは四肢要素に肋骨と脊椎一部である(頭骨要素でてきてくれないものか…)。この時点で後足が長い(ひざから下が長く、足を折り曲げた時につま先が膝より前に出る)という特徴が見て取れる。確かにこの足の長さはコエルロサウルス類の雰囲気だ。

 

 フクイラプトルの特徴である前肢末節骨は齧りつくように観察したい。派生的メガラプトラではもっと薄く、末節骨のカーブ内側は刃物のように鋭くなっているのだが、フクイラプトルはまだ厚い末節骨である。とはいえ、先端の方はしっかり刃物状になってるため、武器として積極的に活用していたことは確実であろう。アロサウルスティラノサウルスの末節骨と比べながら見ると面白そうだ。

(余談ながら、キャプションには「メガラプトル類」と書いてあるのだが、肝心のメガラプトルがマイナー常設展示されていない。そのため「メガラプトルって何?」という声が、見学者からちらほら聞こえてきていた)

 

 今年の2月に大騒動があったフクイヴェナトル(Fukuivenator paradoxus)である(正面写真はちょうどガラスの境目であった)。改めてみてもテリジノサウルス類には見えない。このアングルで見れば雰囲気首は長めだが…。

 

 フクイヴェナトルの後足である。派生的テリジノサウルス類は第四指が伸長して、地面には第一指から第四指が地面に接していることが特徴とされている。よく見ればフクイヴェナトルの時点で第四指が伸長し始めているのがわかる。また、テリジノサウルス類は他のコエルロサウルス類と比較して、中足骨がばらけ気味という特徴もある*2。こちらの方はフクイヴェナトルでもわかりやすい。この時点で走行性はある程度捨てつつあったのだろうか?

 

 フクイプテリクス(Fukuipteryx prima)の産状化石である。復元骨格は思いのほか大きい(鳩ぐらいの大きさらしい)。隣には産出部位を表記した展示パネルがあるため、そちらと見比べながら観察したい。それにしても北谷層という恐ろしく硬い岩石に、鳥類とか言う骨のもろい生物化石の組み合わせ。ラーガッシュテッテン*3ここにあり、と言ったところか。

 

 フクイティタンやコシサウルスを挟みつつ、コーナー端には名無しの恐竜たちが勢ぞろいしている。特にオルニトミムス類は写真の通り、部分的とはいえ要素はそれなりに残っているようだ。現在研究中とのことで、もしかすると2,3年後ぐらいには記載・命名されるかもしれない。「北谷層のオルニトミムス類」には今後注目である。

 

 後ろを振り向けば、北谷層の植物化石がわんさと展示されている。植物相は生態系の基盤である。こちらもじっくりと観察して、白亜紀前期の北谷層を全力で想像していこう。(筆者は今後の原稿資料としてこちらも写真撮影にいそしんだ)

 

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 そんなわけで、FPDMの北谷層コーナーのレポートは以上である。このほかにもフクイティタンやコシサウルスの実物化石があり、北谷層の始まりを告げたワニ類化石(なお写真を撮るのを見事に忘れていた)もありと、このコーナーだけで充実した展示である(やろうと思えばここだけで2時間は余裕)。そしてFPDMならではの見学方法として、メインホールにいる恐竜たちと見比べていくという楽しみ方がある。メインホールで近縁種たちの骨格を見て回った後で北谷層の恐竜を見るか、北谷の恐竜をじっくりと見た後で近縁種たちと見比べるかは、来館時の人込み具合と自分の残り体力との相談であろう。

 なお展示の補完として、FPDMが発行する公式図録が手元にあればベストだ。北谷層展示コーナーにいる化石たちは、2020年の特別展「福井県立恐竜博物館 開館20周年記念 福井の恐竜新時代」にて展示されていた化石がほとんどを占めている。そのため博物館見学の前、もしくは見学後に先述の特別展図録とFPDMの公式展示カタログを購入していただければ、より一層北谷層に思いをはせることができるだろう。どちらも日本語で読める北谷層の一線級資料として非常におすすめの書籍だ。いまなら両冊子とも、オンラインストアで販売中である。

 

(ちなみに、FPDMは2022年12月から2023年夏までリニューアル改修工事を予定している。常設展示の入れ替わりor追加もあるはずだが、この辺りもどうなるのかが気になるところである。個人的にはネオヴェナトルとメガラプトルには出演していただきたいものだが…)

*1:残りの二つはカナダの「ロイヤルティレル古生物学博物館」と中国の「自頁恐竜博物館」

*2:wikiのエルリコサウルスのページを見るか、ジャンチャンゴサウルスの記載論文あたりがわかりやすい

*3:特に保存状態が良い化石の産出地を示す、ドイツ語由来の専門用語。白亜紀前期で有名なところは中国遼寧省の義県層、ブラジルのサンタナ累層が該当する。ほかの時代だとゾルンホーフェンとかメッセルとか