古生物・恐竜 妄想雑記

恐竜好きないち素人による妄想語り置き場

昔の恐竜図鑑を読んでみる~1~

 なんとなくPCで見る当ブログが見づらいと感じつつあるこの頃である。ブログ開設時に何となくで選んだブログデザインではあるが、とりあえず今年中に変更してみようと検討中である。ご了承願いたい。

 そんな予告はさておいて、ここ最近骨格図付きの高カロリー記事が続いていたので、ここいらで少し低カロリー記事を投げようと思った次第である。

 そのうちやりたいと考えているオススメ書籍紹介コーナーで必ず上げようと考えている一冊に、学研や小学館など各種出版社が出している児童向け図鑑がある。紹介される恐竜の種数に過不足は感じられず、説明も非常に分かりやすい。その時点での最新学説が随所に織り込まれているほか、それまでの研究史も時に紹介されていたりもする。図鑑に初めて触れる児童だけでなく、恐竜(を含めた古生物)の知識が全くない人、あるいは10年以上の情報空白期がある人にもオススメができる書籍である。

 とはいえそこは日進月歩の恐竜界隈である。研究が進めば最新情報というものは徐々に変わっていく物であり、更新の難しい書籍などはどうしても情報が古くなってしまうものである。裏を返せば、古い書籍は出版当時の情報がこれでもかと詰め込まれているタイプカプセルになると言えるだろう。

 そんなわけで当ブログ初となるシリーズ企画ものとして、昔の図鑑と現在の図鑑(とその他最新出版された書籍)と比較して恐竜研究の推移を振り返っていこう。なお著作権に配慮する都合上、図鑑本文の写真はほぼ取り上げず文章でどうにか説明していく予定である。ご了承願いたい。

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 というわけで、当コーナーで扱う図鑑はこちらである。

当企画で使用する恐竜図鑑。当然ながら筆者の私物である。



 2000年に学研から出版された『ニューワイド 学研の図鑑 恐竜』である(正確に言えば筆者の手持ちは2002年の第9刷発行ではあるが)。学研社は何度か図鑑の大幅改定を行っており、現在最新の恐竜図鑑は2022年に出版された『学研の図鑑 LIVE』シリーズである。これに加えて2010年に出版された増補改訂版と、小学館から出版されている『小学館の図鑑 NEO』より2002年出版と2010年出版を参考資料として見ていこう。

 懐かしさを感じながらページを開いて「原始的な獣脚類」が紹介されるp23にさっそくフレングエリサウルスとエオラプトルが同居している。フレングエリサウルスは『地球最古の恐竜展』でメイン展示として紹介されていたので、それで覚えている方も多かろう。フレングエリサウルスは三畳紀最大級の獣脚類として紹介されることも多かったが、現在ではおおむねヘレラサウルスのジュニアシノニムとして扱われることがほとんどである。これが反映されたのか、2010年増補改訂版ではフレングエリサウルスは姿を消した。エオラプトルは周知のとおり、エオドロマエウス記載と同時に竜脚形類へ引っ越していった*1が、『ニューワイド 学研の図鑑』では基盤的獣脚類として数えられている。もっとも、エオラプトルなどの三畳紀の恐竜たちは研究次第で系統が変動するため、余り気にしすぎない方がいいだろう。今では常連のタワとエオドロマエウスは記載前であった(タワが2009年、エオドロマエウスが2011年の記載)。

 p24からはケラトサウルス類が紹介されているが、そのなかにシンタルススがいる。よく言われる話だがシンタルスス(Syntarsus)の属名はすでに甲虫類に使われており*2、現在ではメガプノサウルス(Megapnosaurus)に属名が変更されている……というのがざっくりした概要だが、どうも実際はかなりややこしいことになっているようだ。シンタルスス(現メガプノサウルス)の産出地には「南アメリカジンバブエアメリカ」と書かれている。南アメリカは情報不足につき保留するとして、現在確実にメガプノサウルスと同定されている恐竜はジンバブエから産出したMegapnosaurus rhodesiensisのみとされている。これに対し北アメリカ大陸から産出した元シンタルススについてはメガプノサウルスと同属なのか疑問が投げかけられているのである。そんなわけで暫定的に北アメリカ産元シンタルススについてはCoelophysis? kayentakataeと呼ばれたり(英語版Wikipedia)、あるいは”Syntarsuskayentakataeと呼ばれたりしている(Marison 2019、Marsh 2020)。ディロフォサウルスとリリエンステルヌスが分類されていたハルティコサウルス科が2022年版で消し飛ばされているのはディロフォサウルス再記載に伴う系統解析を反映した結果だろう。2022年版ではどちらも「基盤的新獣脚類(コエロフィシス科より派生的)」と書かれている。

 次のページにいるのはケラトサウルスとアベリサウルス科の面々である。アベリサウルス科の種数が少ないことに懐かしさを覚えながらp27の下側へ目を移すと、そこにいるのはドロマエオサウルスに収斂した姿に描かれたノアサウルスである。現在ノアサウルスの姿は同じくノアサウルス亜科であるマシアカサウルスと同じような姿に復元されており、そこに後肢第2指に発達したシックルクローの姿はない。どうもメガラプトルやフクイラプトルと同じ流れをたどったらしい(とはいえ正直、ノアサウルス亜科の前肢にたいそうなシックルクローは不釣り合いな気もするのだが)。

 p28では『カルノサウルス類など』ということで、アロサウルス上科、メガロサウルス科、スピノサウルス科が紹介されている。カルノサウルス類が復活しそうという話はアスファルトヴェナトルの紹介時に書いたが、2022年版ではそれぞれ分割されて紹介された。このあたりの分類がどうなるかは今後の研究次第だろう。ページをめくってもクリオロフォサウルスがここに含まれている(2022年版ではディロフォサウルスと同じページにいる)ぐらいしか現在の研究状況と変化がない……と思いきやネオヴェナトルとアフロヴェナトルが懐かしい表記である。ネオヴェナトルはこの時アロサウルス科として分類されているが、現在はネオヴェナトル科という独自分類に属している。アフロヴェナトルは現在メガロサウルス科に分類され、時代も白亜紀前期からジュラ紀前期として解釈されている。

 なおフクイラプトルは2000年版には掲載されておらず、2010年増補改訂版で初掲載されたが、この時はまだカルノサウルス類への分類であった。2022年版においてフクイラプトルはネオヴェナトル科に分類されているが、ご存じの通りフクイラプトルを含むメガラプトラの分類は定まっていない。これが考慮されたのかは分からないが、2022年版はメガラプトラは全種が未掲載である。メガラプトラの掲載は次回以降の改訂に期待したい。

 

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 というわけで、今回はヘレラサウルス科と基盤的獣脚類、メガロサウルス上科、アロサウルス上科の書かれ方について振り返ってみた。次回はコエルロサウルス類を取り上げてみたい。コエルロサウルス類はこの20年で大きく研究が進み、多数の新属記載や分類の変動があり、図鑑内容も変わっていることが予想される。さあ、昔の図鑑にはどのようなことが書かれているのか、楽しみなものである。

 

参考文献

松下清,2000,ニューワイド 学研の図鑑 恐竜,株式会社学習研究社,p172

伊藤哲郎,2010,ニューワイド 学研の図鑑 恐竜,株式会社学研教育出版,p184

小林快次,2010,地球最古の恐竜展〔公式カタログ〕,NHK,p179

平沢達矢ほか,2022,学研の図鑑 LIVE 恐竜,株式会社学研プラス,p247

舟木嘉浩,2002,小学館の図鑑 NEO 恐竜,株式会社小学館,p183

 

*1:『地球最古の恐竜展』の公式図録では本文こそ獣脚類として紹介されているが、分類には「恐竜類・竜盤類・竜脚形類」と書かれている。また『小学館の図鑑 NEO』の2010年版ではエオドロマエウス記載における新設を採用してか、竜脚形類として紹介されている。

*2:英語版Wikipedia情報で申し訳ないが、ネット上で調べた限りキクイムシの仲間であるCerchanotus属のジュニアシノニムになっているらしい。つまるところ、有効名としてのSyntarsus属は存在していないようだ。